2013年8月28日水曜日

西村義樹・野矢茂樹著『言語学の教室―哲学者と学ぶ認知言語学―』

長らく更新が途絶えてしまっていました。ダメですね(笑) これからは定期的に投稿できるようにしたいです。(学会とか非常勤とかが重なって忙しかったっていう言い訳はしない)

先日、東京の学会に行くことがあり、ここぞとばかりに丸善の本店に赴きました!いやぁ、規模が違う規模が!今住んでいるところにこれくらい大きな本屋さんができるといいのですが…そうもいかないようです。その時、手に取ったのがこの一冊:西村義樹・野矢茂樹著『言語学の教室―哲学者と学ぶ認知言語学―』。認知言語学の基本的な考え方を西村先生が解説し、野矢先生が質問していくという形式で、認知言語学を勉強して少しよく分からかった部分がすっきりした気がします。(ただ、認知言語学の理論を基礎から説明しているというわけではないので、あらかじめ一冊認知言語学入門書を読んでから読む方が良いのではないかな、と個人的には思います。)

第1回 認知言語学の誕生
これまでの言語学の歴史を辿りながら、生成文法から生成意味論、そして認知言語学の誕生を解説されています。また、生成文法と認知言語学の接点と相違点とは何なのか。相違点に関してはさまざまな入門書等でも取り上げられていますが、接点を語って下さっているのは、私にとって新鮮で面白かったです。
言語習得や言語使用を可能にしている知識のあり方を解明することを目標にし、しかもその言語知識を心の仕組みの一環として捉える、その点では生成文法も認知言語学も違いはありません。(pp.20-21) 
つまり、追い求めていることは同じものであるということかなと思います。その時に心の仕組みの一環として捉える『捉え方』が、それらの間の相違点と言えます。言語が自律した器官であると考えるのが生成文法、言語が他の器官(視覚や聴覚など)とは切り離せないと考えるのが認知言語学、と言うことができるかもしれません。


第2回 文法は意味と切り離せるか
タイトルの通り、文法と意味が切り離せるかどうかという議論です。語彙―厳密には語彙項目―の意味と文法が切り離せるか、この問題についてbe going to doの文法化(grammaticalization)の仕組みや、日本語の「てくる」を例に解説して下さっています。認知言語学では、語彙項目と文法は同じ連続体の上にあると捉えられていることがよく分かります。


第3回 プロトタイプと百科事典的意味論
たとえば、「犬」という語の意味を理解しているというのはどういうことか、と考えてみます。それは、何かを見た時にそれが犬か犬でないか判断できることですよね。つまり、「犬」のような語の意味が分かるとは、その後と結びついたカテゴリーが適切に使えることにほかならない、そう考えられます。(p.64)
人間は、物事をカテゴリーに分けて捉えようとする認知能力を持っています。このカテゴリーが言語に大きく影響を与えていると考えられます。カテゴリーの中にはそのカテゴリーの代表例、つまり中心的な典型例(プロトタイプ)と、一応カテゴリーの一員ではあるが、中心ではなく周辺にいるものがあります。この例でよく引き合いに出されるのが「鳥」です。例えば、「スズメ」はより典型例に近く、「ペンギン」は鳥類に分類されるものの、鳥のプロトタイプとは言い難い。 これらを決定づける要因は何か、というものが「プロトタイプ条件」と呼ばれるものです。鳥は①くちばしがあり、②羽があり、③空を飛ぶことができるなどがこれにあたります。このような考え方は名詞だけでなく動詞や他の言語の部分にも影響を与えていることが解説されています。


第4回 使役構文の家族的類似性
使役構文をプロトタイプの観点を含めて解説してくださっています。ウィトゲンシュタインの「家族的類似性」という考え方も出てきて少し難しそうですが、簡潔に説明が加えられていると感じました(私がきちんと家族的類似性を理解しているわけではないかもしれないのにそんな上から目線のry)


第5回 メトニミーをどうとらえるか
メトニミー、日本語では換喩と呼ばれます。入門書で良く例として取り上げられるのは「鍋をつつく」という表現。実際につつくのは鍋の中に入っている具材なのであって鍋ではないのに、言語表現としては「鍋をつつく」と言います。ここには近接性(contingency)が働いていて…と考えていきます。Langackerの参照点構造も簡潔にわかりやすい例で解説されていました。

第6回 メタファー、そして新しい言語観へ
私が取り組んでいる研究の主なテーマがメタファー(隠喩)で、どのように解説されているのかなぁと思いながら読んでいましたが、これまで通りとても簡潔にまとめられていたように思います。概念メタファー理論の中核的人物であるレイコフの裏話(?)的なものがあって面白かったです(と思うのは私だけかもしれません(笑))。


と、夏休みの読書感想文みたくなりましたが、前述のとおり、認知言語学を少しかじったことのある人にはおすすめの本です!認知言語学をがっつり勉強した方にとっては少し物足りないかもしれませんが、例が豊富なので、知識をより確固なものにすることができると思います!

拙文失礼しました。


西村義樹・野矢茂樹著『言語学の教室』